川内先生の教育提言「『臨界期』と子供の成育」

川内先生の教育提言27.「『臨界期』と子供の成育」をお送りします。この内容は先生が拡散を希望されています(仁)。


川内時男先生の活動報告
(元徳島県公立中学校校長)

《27、「臨界期」と子供の成育
「臨界期」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
動物行動学者の間ではよく知られた言葉ですが、教育界ではあまり耳にしたことがありま
せん。
 「臨界期」というのは動物が成長する過程において、ある能力を身につけることが出来る
限られた期間のことです。その期間を逃した動物は永久にその能力を身につけることが出来
ません。
  例えば生後間もない子猫を暗闇の中に置き、一定期間光の刺激を与えないでおくと、子猫
はその後明るい場所に出しても生涯目が見えないという話は有名です。これは、ある期間
(臨界期)に光の刺激を与えなかったことで、光を感じる脳細胞が「光を感じる能力は必要
なし」と判断し、自ら視覚の神経細胞を成長させなくなることによります。
 また生後7週間に満たない子犬を親兄弟から切り離すと、その子犬は群れる習性が育たず、
もはや群の中に戻しても仲間に溶け込むことができず、他の全ての犬に戦いを挑んだり、怯
えたりするようになるそうです。
 鳥が羽ばたきを覚えて空を飛べる能力を身につけられることにも臨界期があり、その期間
を逃すとその後はどのように筋力が発達しても空を飛ぶようにはなりません。
 ヒトの発育にも臨界期があり、絶対音感や社会性、言語(特に発音)の習得などはこの臨
界期と密接に関連しています。ですから臨界期を抜きにして教育を語ることは出来ないので
す。
 幼児幼児教育の分野ではこの臨界期の重要性がある程度認識され、それなりに活かされて
いますが、幼児教育が終わった後の学校教育ではそれが出来ていないように思われます。
学校に通うようになったからと言って臨界期に無縁と言うことではありません。
 
 高度に文明化され、システム化された現代社会に生きる子供は、森に住む動物より遙かに
多種多様な能力を身につけなければなりません。また、それら膨大な種類の能力にはそれぞ
れ臨界期が関係していますので、能力の種類に応じて最も適した時期に、最適な方法で身に
つけさせる必要があります。

 ということで、学校教育においては子供が身につけるべき能力とその臨界期について理解
しておくことは極めて重要なことです。しかし現代の教育界では全くそれに関心がないよう
に見えます。
 
 「霊長目ヒト科の子」である子供にとって絶対に欠かせない能力、それは「仲間と群れる
能力」、つまり「仲間に入って人間関係をうまく構築する能力」でしょう。

 森に棲む子猿は多くの仲間と群れ遊ぶ中で社会性を身につけます。子供も霊長類の一種、
社会性を養うためには、幼少期に仲間と群れ遊ぶ体験が欠かせません。
この群れ遊ぶ体験をしなかった子供は、群から引き離された子犬のように、仲間との友人関
係をうまくつくることができず、群になじめなくなるのです。少子化が著しい現代ですから、
大人はできるだけ子供が群れ遊べる機会を作るよう心がけなければなりません。》