文科省の「教科書検定の期間中内容公表は『不合格』への反論

皆 様

今日の産経に「教科書検定の期間中内容公表は『不合格』」の記事が掲載されました。

この報道内容に対して、藤岡副会長が文科省に対する反論をされておりますので転送いたします(隆)。

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教科書検定罰則指定新設の矛盾

本日(11月11日付け)の産経新聞は、<教科書検定の期間中内容公表は「不合格」>という見出しの記事を掲載した。

その骨子は、文科省が11月10日、教科書検定審議会で了承を得たとして、教科書検定期間中の教科書会社による内容の公表があった場合、次回検定も含めて不合格にするという罰則を定めたというもの。この背景には、令和元年度検定で自由社の歴史教科書が「一発不合格」にされたため、新しい歴史教科書をつくる会が2月21日に記者会見を開き、それを公表したという経過があり、それを受けて「再発防止策」を検討した結果だという。

しかし、この決定には重大な疑義がある。令和元年12月25日、自由社は上に添附した不合格の「通知」を受け取った。これを見ると次のことがわかる。

第一に、自由社の歴史教科書の検定は、この12月25日に完了しているのであり、つくる会が「検定期間中」に内容を公表したという非難は当たらない。「一発不合格」にならなかった他社の教科書は、2月末から3月初旬にかけて最終修正表が確定し合格の内示を得ることが出来るが、正式決定は3月末の検定審議会であるから、それ以前に公表することは確かに規則に違反するであろうが、「一発不合格」制度は令和元年度の教科書検定で自由社に対し初めて適用されたものであるから前例はなく、初中局長名で最終結果を通知している以上、自由社についての検定は完了したと解釈することに何の問題もない。

第二に、「通知」の文面をよく見てほしいのだが、「なお」書きで、「この決定について不服があるときは、この決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、文部科学大臣に対して行政不服審査法に基づく審査請求をすることができます」と書かれている。

12月25日の翌日から起算して「3か月以内」ということは、翌年の3月25日までが請求の期限だということである。ところで、記事にもあるように、「年度ごとの検定結果は、文科省が3月ごろに公表」する慣例である。たいていは3月末ぎりぎりの時期に開かれる検定審議会総会で決定される。令和元年度検定の場合は3月24日に検定審議会の総会が開かれているから、新聞等で広く公表されたのは3月25日であった。そうすると、仮にこの「通知」をもとに行政不服審査を請求しようと考えたとしても、検定結果の公表後という縛りがあるから到底間に合わなかったことになる。

さらに検定審議会の日程は、場合によっては4月にずれ込むこともある。現に『改訂版新しい歴史教科書』(扶桑社刊)の検定合格日は、平成17年(2005年)4月6日であった。この日に総会が開かれたからである。もし、今回の新たな罰則規定が施行されれば、「一発不合格」処分を受けた教科書会社は、「行政不服審査法」という法律で保障された請求権を実質的に奪われるということになる。これは由々しき国民の権利の侵害である。

第三に、「一発不合格」処分を受けた教科書会社は、ことごとく対抗手段が奪われる。自由社の場合も、2月段階で検定の不当性を公表する以外に社会的な問題とする手段がなかったのであり、このような行動にはよくよくの事情があるのである。萩生田文科大臣は「検定期間中」であることを理由に繰り返し自由社を非難したが、国会で質問に立った日本維新の会の松沢成文参議院議員は、「これ以外に方法がなかった」と自由社に同情する趣旨の発言をしている。

近年の文科省による教科書行政の傾向は著しく行政側の都合のいい変更が相次いでいる。行政改革の流れに逆行する規制の強化である。今回の罰則規定の制定は、その仕上げの意味をもつことになろう。こうした規制の強化によって、反日左翼偏向の教科書検定が盤石のものとなる道が開かれようとしている。こうした流れを加速させている萩生田文科行政には大いなる危惧を抱かざるを得ない。

藤岡信勝