藤岡信勝先生講演録「事件史でたどる歴史教科書問題~検定と採択の過去・現在・未来~」⑤

第3弾 新たな不正の証拠が露見

まず「訂正申請」について説明しましょう。令和元年(平成31年)4月に申請本(白表紙本)が検定申請され検定開始、検定意見が付くと各社はその意見のついた箇所を書き直します。そして令和2年3月に検定終了、4月~8月に採択に入ります。採択に出された後で出版会社がもう一度見直したら間違いに気づいたというケースも出てきます。学校で使うのは次の年の4月からですから、まだ1年間ある。それまでに各社が文科省に申請して直す(訂正)することができます(=訂正申請)というものです。

令和2年度にこの「訂正申請」の件数が前代未聞の多さでした。

東京書籍は訂正申請数が386(検定意見は21)、日本文教出版の訂正申請数は564(検定意見は24)。教育出版に至っては訂正申請数が702(検定意見は38)もありました。

東京書籍:検定意見21+訂正申請数386=407

日本文教出版:検定意見24+訂正申請数564=588

教育出版:検定意見38+訂正申請数702=740

自由社(「つくる会」)):検定意見405+訂正申請数0=405

なんと上記3社は自由社(「つくる会」)の教科書より訂正数は上回っていたのです。これは文科省の検定でいかに多くの誤りを見逃してきたか、の表れでもあります。

ここで「検定率」概念の提唱をしたいと思います。「検定率」は「検定意見数」を要検定箇所数(検定意見数+検定見逃し数)で割って100をかけたもの、です。実際訂正した数のうち、文科省の検定意見がついたもののパーセンテージを出したものです。

誤記・誤植など客観的誤りに限定した検定率を出すと、日本文教出版の検定率は3%(検定見逃し率は97%)、教育出版は7%(検定見逃し率は93%)という数値がでました。

高校の教科書でも文科省の不正検定が露見しました。名付けて「東京書籍『高校地図』教科書検定サボタージュ事件」です。これは2023年2月に発覚した事件で、既に生徒の手にわたり授業で使っている地図教科書に誤りが多いとクレームが寄せられたのです。その訂正数は1200件にも上りました。

2023年(令和5年)2月18日の読売新聞では「お墨付き教科書まさか」という大きな見出しで「教科書会社『東京書籍』の地図の教科書で約1200か所の訂正が見つかった問題は、教科書への信頼性を大きく揺るがした」「文部科学省の教科書検定に合格した、いわば『お墨付き』教科書だけに専門家は『責任の一端は文科省にもある。再発防止を』と求めている。」と報道しています。

以上ご説明してきたように教科書の「不正検定」の2つの類型として、

「作為の不正検定」(自由社「つくる会」ケース:一発不合格にすることを決め、検定意見数を水増しする)

「不作為の不正検定」(東京書籍の地図ケース:初めから合格させることを決め、大甘の姿勢で対処する)

があることが分かりました。