川内先生の教育提言(29)「臨界期と大人の引きこもり」

川内先生の教育提言(29)「臨界期と大人の引きこもり」をお届けします。

大人の引きこもりってそんなに多いんですか?原因は?解決策は?(仁)

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29、臨界期と大人の引きこもり(5/13)

大人の引きこもりは今も深刻です。その数は全国で推計70万人と言われます。
60代の高齢者の引きこもりもありますが、これは職場を退いた隠居身分の人達ですからしかたないとして、問題なのは20代の若者から60代までの、本来なら社会の最前線で活躍しているはずの人達の引きこもりです。


私が特に注目するのは、15~39歳の最も精力に満ちあふれた若者の数の多さです。
平成27年度の内閣府の調査によれば、推計54万人だということです。


そして引きこもりになったきっかけの内訳は、職場に馴染めなかった24%、病気24%、就職活動の失敗20%、不登校12%、人間関係12%、大学に馴染めなかった7%です。
これらを俯瞰してみれば、病気を除けば残りのほとんどは「人間関係の不調」が原因と見ることが出来ます。


学者や専門家達が「不登校」や「大人の引きこもり」の問題を前にした時の思考形態はは
「彼らを家に閉じこもらせている原因は何か」「その原因を取り除いてやれば自ら進んで家から出るようになるはず」というシンプルでお決まりのパターンです。


事実、私が知っている臨床精神科医は「不登校を治すのは簡単です、不登校を引き起こしている原因を取り除いてやればすぐにでも治ります」と、こともなげに言っていました。聞いていて怒りがこみ上げてきました。

 故障した機械なら原因となっている箇所の部品を取り替えればすぐに直るでしょうが、人間は機械ではありません。第一その原因となるものが見つけられたとしても、それが簡単に取り除けるようなものかどうか。学業成績のこと、友人関係のこと、家庭内部のことなど、どれ一つとっても機械の部品を取り替えるようにいかないものばかりです。


専門家達がこのような思考回路に陥っていく原因は専門家達が欧米の教育観に毒されているからでしょう。欧米の教育観とは「人間はもともと正しく伸びようとする力を秘めている」「正しく伸びないとすれば、成長を阻害する要因があるはず」「それを取り除いてやれば正しく成長するはず」というものです。


もし不登校や引きこもりがある種の病原菌によるものであればこの考えは正しいと言えます。人間には体内に免疫力が働く仕組みがありますから、その働きを阻害している要因を取り除いてやればすむことです。しかし「不登校菌」や「引きこもりウィルス」などはこの世に存在しません。


ということで、こんな的外れな考えにとらわれていては、いつまでたっても解決策は見えてこないのです。解決の糸口はやはり科学です。動物行動学の視点で考えれば解決の糸口が見えてくるのです。

(このことは次号で詳しく述べます)