藤岡信勝先生講演録「事件史でたどる歴史教科書問題~検定と採択の過去・現在・未来~」④

●つくる会 第3の危機 令和元年度(2019年) 自由社検定不合格事件

『新しい歴史教科書』が令和元年12月の文部科学省の教科書検定において、言いがかりに近い検定意見が多数付けられ、「一発不合格」になる事件が起こりました。

文科省の定める検定規則が3年前(平成28年・2016年)に改定され、教科書のページ数の1・2倍以上の検定意見がつくと年度内に再申請できないという審査基準が設けられました。自由社の『新しい歴史教科書』には405もの検定意見(その殆どが「欠陥指摘」)がつき約1・3倍となったため「一発不合格」となったのです。

他の教科書会社は例えば「東京書籍」は21、「日本文教出版」は24、「教育出版」は38でした。極左教科書ともいえる「学び舎」は144でした。これだけ見ると、自由社の教科書はよほど杜撰な教科書と思われるでしょう。しかし次に説明するように不正検定が行なわれていたのです。

令和元年度教科書検定不正の証明(第1弾~第3弾)

第1弾 検定意見そのものの不当性

例えば、ここに年表があります。縄文時代から江戸時代、明治からは天皇の元号になっている。令和元年度は5月1日から改まったので、教科書検定に申請を出した時はまだ平成31年の3月、「令和」と決まっていませんから、「■■」と伏字にしていた。ところがこれが「欠陥箇所」とされ「生徒が理解し難い・誤解するおそれのある表現」とされたのです。

こうした理解し難い不当な検定意見100件について論証を試みた本が『教科書抹殺-文科省は「つくる会」をこうして狙い撃ちした』です。

第2弾 ダブルスタンダード検定

これは他社の教科書と同じことを書いているにもかかわらず、「つくる会」の教科書だけに意見を付けていた、というものです。

例えば142頁に「江戸時代の長屋の一角」として「稲荷、井戸、ゴミ箱、厠」の写真を掲載していますが、しかしこれに「生徒が誤解するおそれがある表現である」と意見がつきました。「復元されたものであることが分からない」というのです。確かにこれはある資料館に復元されたものですが、武家屋敷の保存はあっても江戸の町並みがそのまま保存されているとは聞いたことがない(復元であることは自明の理)。

ところが「学び舎」121頁の同じ写真(置いてある道具が少し違うだけ)に対しては意見がついておりません。こうして同じ写真や同じ記述であっても「つくる会」(自由社)の教科書には検定意見が付くというダブルスタンダード検定が行なわれていたのです。

こうしたダブルスタンダード検定箇所31についてまとめた本が『教科書検定崩壊!』です。