つくる会 文科省の罰則規定導入に反対声明

文科省は自由社の教科書を不当な検定で一発不合格にしておきながら、さらに「検定期間中に検定内容や検定結果を公表した場合、次回検定も含めて不合格にする」という罰則を設けようと企んでいます。

これは恐るべきことです。これがいかに不当なものかは下記の声明を読んで頂くとよく分かります。(仁)

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文科省教科書検定の罰則規定導入に反対する声明

令和2年(2020年)11月12日
新しい歴史教科書をつくる会

文部科学省の教科書検定審議会は10日、教科書会社が検定期間中に検定内容や検定結果を公表した場合、次回検定も含めて不合格にする罰則を設けるとの方針を決めた。これを報道した共同通信は「令和3年度の検定から適用する方針」と書いた。

つくる会事務局が文科省教科書課に罰則規定の条文を請求したところ、共同通信の報道は勇み足であり、この件は方向を決めただけでまだ条文も出来ておらず、何も決まっていないと返答した。そこで、当会が共同通信に問い合わせたところ、担当記者の判断で書いたものであるとの回答を得た。

結論を言えば、まだ条文化されるまでに至っていないが、基本方向を決定した段階であるということになる。教科書改善問題に携わってきた当会は、教科書検定にこのような罰則規定を導入することに強く反対する。

文科省の方針決定の背景には、令和元年度検定で自由社の歴史教科書が「一発不合格」処分を受け、これを不当とするつくる会が、令和2年2月21日に文科省で記者会見を開き検定結果を公表した経過がある。

この記者会見について文科省は、検定規則に違反するとして開催しないように圧力をかけ、会見後は自由社から始末書をとるなどしてきた。今回の決定は、こうしたことの「再発防止策」を検討した結果だと共同通信は報じている。しかし、文科省のこの問題に対する対処には大きな誤りや矛盾がある。

第一に、自由社は、令和元年12月25日に、文科省初等中等教育局長の職印を押した正式な文書を受け取っており、そこには「下記の図書は・・・検定審査不合格と決定されましたので通知します」と書かれていた。この時点で自由社に対する教科書検定は完了しているのであり、つくる会が「検定期間中」に内容を公表したという非難は当たらない。

他社の教科書については、教科書調査官との協議を経て、2月末から3月初旬にかけて最終修正表が確定し合格の内示を得ることが出来るが、正式決定は3月末の検定審議会であるから、それ以前に検定内容を公表することは確かに規則に違反するであろう。他方、「一発不合格」制度は令和元年度の教科書検定で自由社に対し初めて適用されたものであるから前例はなく、初中局長名で最終結果を通知している以上、自由社についての検定はその時点で完了したと解釈することに何の問題もない。

第二に、自由社に対する「通知」の文面の末尾には、「なお、この決定について不服があるときは、この決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、文部科学大臣に対して行政不服審査法に基づく審査請求をすることができます」と書かれていたが、これは根本的な矛盾を含んでいる。行政不服審査の請求期間は、以下に検討するように、ほとんどその年度の教科書検定期間と重なってしまうからである。行政不服審査の請求は検定不合格に対する異議申立であるから必然的に検定結果を公表することになるが、他方で文科省は検定期間中の検定結果の公表を罰則規定まで設けて禁止しようとしているのである。

令和元年度の自由社の例について検討するなら、12月25日の翌日から起算して「3か月以内」ということは、翌年の3月25日までが請求の期限だということである。ところで、年度ごとの検定結果は文科省が3月末ごろの検定審議会にかけて決定する。検定審議会の日程は公表されず、年度によって異なるが、一般的には3月末の年度末ギリギリの時期に開かれることが多い。令和元年度検定の場合は3月24日に検定審議会が開かれているから、新聞等で広く公表されたのは3月25日であった。そうすると、仮にこの「通知」をもとに行政不服審査を請求しようと考えたとしても、検定期間中であるから出来ないことになる。

さらに検定審議会の日程は、4月にずれ込むこともある。現に『[改訂版]新しい歴史教科書』(扶桑社刊)の検定合格の決定日は、平成17年(2005年)4月6日であった。もし、今回の新たな罰則規定が施行されれば、「一発不合格」処分を受けた教科書会社は、「行政不服審査法」という法律で保障された不服審査請求権を実質的には完全に奪われるということになる。これは由々しき国民の権利の侵害である。

第三に、「一発不合格」処分を受けた教科書会社がそれを公表すると、新規の罰則規定のもとでは「次回検定も含めて不合格とする」というのであるから、これはまさに、検定に異議を唱える教科書会社に対して二度と立ち上がれないほどの懲罰を与えるというに等しい処遇である。

しかし、自由社の場合は、明らかな「不正検定」が行われたのであり、2月段階で公表して社会に検定の不当性を訴える以外に対抗手段が無いという状況のもとでなされた行動なのである。こうした、よくよくの事情があることを一顧だにせず、萩生田文科大臣は「検定期間中」であることを理由に繰り返し自由社を非難した。

だが、国会で質問に立った日本維新の会の松沢成文参議院議員は、「教科書検定のプロセスが全部終わるまで情報公開しちゃいけないというルールだから、それを破ったつくる会は困ったもんだという御見解でしたけれども、つくる会にしてみれば一発不合格なんです。・・・だから、やむにやまれぬ気持ちで・・・もう検定のやり方自体がおかしいじゃないかという抗議の意味を込めて、アピールするのは当然だと思いますよ」(3月10日参議院文教員会)と述べ、つくる会に同情する発言をされている。

そもそも、「再発防止策」を検討するなら、「不正検定」の「再発防止策」こそ検討されなければならないはずだ。「不正検定」の事例の中には、自由社が他社と同一の記述をしながらも欠陥箇所として不合格とされたケースが少なくとも二十数件存在する。このような、法の下の平等に明確に反する「不正検定」の防止は、法治国家の教育行政を預かる文科省が真っ先に行わなければならないことではないだろうか。近年の文科省による教科書行政の傾向は行政側に都合のいい変更が相次ぐもので、官民の力関係のバランスを著しく欠いている。今回の罰則規定の導入はその仕上げの意味を持つことになるだろう。

教科書検定に対する罰則規定の導入は、行政改革の流れに逆行する規制の強化である。こうした規制の強化によって、左翼偏向の教科書検定のあり方が温存されるばかりか、さらに、批判を許さない盤石のものとなる道が開かれる。こうした流れを加速させている萩生田文科行政には大いなる危惧を抱かざるを得ない。以上の理由から、文科省は教科書検定過程に罰則規定を導入する方針を撤回するべきである。 (以上)