川内先生の教育提言(30)「不登校・引きこもりと臨界期」

しばらく空いてしまいましたが、川内先生の教育提言を続けます(仁)。

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川内時男先生の活動報告
(元徳島県公立中学校校長)

30、不登校・引きこもりと臨界期
  不登校と引きこもりの問題は、様々な施策が行われているにも拘わらず、なぜ解決しないので
しょう。
私は以前にも言いました。
今やっているような「本人を労り尽くして回復を待つやり方」では解決しないと(事実、全く解
決していません)。これを見て一部の短気な人は「そんなヤツは甘ったれているんだ、無理矢理に
家から引きずり出せ!」と言うでしょう。随分乱暴に聞こえますが、そのやり方、実は正解です。
命に関わるような深刻ないじめが関係しているのであれば別ですが、そうでない限りは、それが最
も早い有効な解決方法です。

 しかし現代教育はなぜかその「手っ取り早い方法」を「禁じ手」にします。理由は私にも分かり
ません。うがった見方をすれば、学者先生達が「そんな方法で簡単に解決されたのでは自分たちの
立場がない」と考えているからかも知れません。
 不登校や引きこもりを解決するにはある種の力が必要です。
と言っても相手が中学生以上、あるいは大人の場合は体力的にも無理です。また両親が働きに出て
家を留守にする家庭などもそういう方法はとれません。
 ということで、ひとたび不登校や引きこもりになってしまうと、なかなか解決は難しいもので
す。世間では「不登校や引きこもりになった人をどうするか」ばかりに目が向けられていますが、
私は「不登校や引きこもりにならないようにするにはどうすれば」の方が大事だと思うのです。
しかし専門家や学者先生達はそれに目を向けません。深い根の部分を見ることなく、地表の部分
だけを見ているのです。これではいつまで経っても問題は解決しません。

 一見解難しそうに見えるこの問題ですが、動物行動学的視点に立って考えれば解決につながるヒ
ントが見つかります。 子供は成長するとともに親の保護から遠ざかりはじめ、中学時代には独り
立ちの準備を始めます。鳥で言えば巣立ちの時期です。

 親鳥は雛が巣立ちの時期を迎えると巣に餌を運ばなくなり、巣から少し離れた木の枝に止まって
羽ばたきをして見せ、雛に巣立ちを促します。雛は親鳥を真似て懸命に羽ばたきをし、巣立ちの訓
練をします。雛にとっても親鳥にとっても最も緊張する時期です。もし失敗して地面に落ちたりす
ればたちまち猫の餌食ですから、相当なストレスに違いありません。しかしこの時期を逃してはも
う巣立ちをするチャンスは巡って来ません。雛は何度か羽ばたきをした後、勇気を振り絞って大空
へと飛び立ちます。 引きこもりはいわば巣立ちが出来なかった雛のようなものと言えましょう。

 要するに独り立ちの準備期間である臨界期を安逸に過ごさせてしまったことが原因です。
幼少期に群れ遊ばせ、その群の中で親が知らない自分の世界を持ち、親の保護から遠ざかり・・・
これが独り立ちへの一歩となるのです。
 が独り立ちの一歩を歩み始める時期には、親は相当な覚悟を持たなくてはなりません。
「子供の気持ちに寄り添う」として「学校に行くか行かないか」という重大な問題までも子供の自
主性・主体性に任せてしまうのは大きな間違いです。現在不登校で苦しんでいる親には厳しい
になりますが、親には「問答無用で子供を従わせる力」が必要なのです。
 不幸にも独り立ちが出来ず引きこもってしまった人はどうするか、強引に家から放り出し、一切
の援助を打ち切る覚悟が必要です。
 実は欧米では引きこもりはありません。親が「大人になれば親の責任は果たした、あとは本人の
責任」として家から追い出すからです。(その分ホームレスになる人は増えますが)
 ヒトの臨界期には可塑性があり、猿や鳥のように明瞭ではありませんが、なだらかな臨界期はあ
ると言われます。鳥や猿が全精力を集中して独り立ちするのと同様、人間も独り立ちするときには
多大なストレスと不安を克服しなければなりません。
 「何であれストレスは悪」と決めつける社会は本人にストレスを克服することを求めず、労って
ばかりいます。「独り立ちを阻害している要因」を探すとすればこれこそがその要因です。