『はだしのゲン』その問題を考える(4)

【日本国内にいる見えざる敵への憎悪】

「戦争を起こした」という国内への見えざる敵を想定し、その敵への憎悪もひどいものである。

ゲンの父・中岡大吉「軍部のやつらが金持ちにあやつられ 武力で資源をとるため かってに戦争をはじめて わしらをまきこんでしまった」(第1巻19頁)、「ひとにぎりの金持ちがもうけるため国民のわしらになにひとつ相談もなく かってにはじめたのだ」(第1巻96頁)

ゲンの母・中岡君江「天皇陛下を利用して戦争をはじめて もうけ…」(第2巻348頁)

ゲン「戦争はよくばりの自分さえよければええと思うとる死の商人がしかけるんじゃ」(第6巻250頁)

ゲンの友人・勝子「正義のために日本は鬼畜のアメリカとイギリスをやっつける戦争をするんだと勝手な うそのお題目をふりまき 正義の仮面をつけて戦争の甘い汁を吸った奴らは みんな殺人者として刑務所に入るんじゃ」(第7巻372頁)

この本を読み進むうち、日本人として素朴な疑問が湧いてくる。作者はそもそも母国への信頼や愛着があるのだろうか。

私たち日本人はもともと心根が優しい民族ではないか。お人よしで、酷い事をされても水に流すような。私たちの先祖はこの本の登場人物の言うようにそんなに悪逆非道だろうか。

そして日本において、ひとにぎりの人の儲け話で戦争が起きたのだろうか?もっと深い追究もなしに、憎悪に陥るのはおかしくないだろうか。日本人であるなら、私たちの先祖は何かやむを得ない理由があって戦争に突入したのではないか、と思いを致すのが自然であろう。