『はだしのゲン』その問題を考える(1)

今年の3月に広島市教育委員会が広島市立学校で使用している副教材「ひろしま平和ノート」から『はだしのゲン』の部分を削除することが話題になった。この本は10年ほど前の2012年にも松江市教育委員会によって誤った歴史認識を与えるとして学校図書室から撤去されたことがあった(その後閲覧制限の撤回)。2013年には「新しい歴史教科書をつくる会」が有害図書として教育現場から撤去するよう文部科学相に要請書を提出したこともある。保守系の人々から問題提起されると左派系が反発する、ということが繰り返し起きている本(漫画)である。

そこで『はだしのゲン』とは、どういう本であるか、さらに具体的に問題個所を挙げて分析し、日本人にとっての国史の見方・考え方について述べたいと思う。

まず、『はだしのゲン』がどんな本であるか説明していく。『はだしのゲン』は、主人公・中岡元(ゲン)が広島で被爆しながらもたくましく生き抜いていく物語である。作者・中沢啓治の被爆体験がもとになっている。話は原爆の直前(ゲンは小学2年生)から朝鮮戦争のころ(1953年)まで約8年間を描いているが、中心は原爆の惨状、被害を受けた人々の苦闘であり、ゲンら子供達も常に悲しみと危険と隣り合わせに生きる姿がある。その中で笑いもあり、悪を打ちのめす痛快な場面もある。

しかし問題は物語が進行するとともに激しさを増す天皇批判、日本軍批判、そして日本国内にいる見えざる敵への憎悪である。それはゲンの父親、母親、ゲンの友人、そしてゲン自身の口から吐き出される言葉に表れる。

『はだしのゲン』の掲載誌にも触れておく。1973年(第25号)~1974年(第39号)は集英社『週刊少年ジャンプ』(中公文庫コミック版では第3巻の後半まで)であったが、1975年(9月号)~1976年(8月号)は革新市民団体雑誌『市民』、1977年(7月号)~1980年(3月号)は日本共産党中央委員会の発行誌『文化評論』、1982年(4月号)~1987年(2月号)は日教組機関紙『教育評論』で連載された。つまりこの本の後半の掲載誌は左派系であり、それに沿った内容であったのである。